女房は油くどいものが苦手でありまして、トンコツはいつも敬遠をしていたんです。が、トンコツってぇぐらいだから骨なんだぜ、油はないんだぜと説得をしていたんですが、どうしても最後に背油だ、鶏油だとかが入る。結局それがくどいから食べられない。
が、環境というものは恐ろしいものでして、油が大好きなあたしと一緒になりまして、相当なところまで食べられるようになってきたんです。が、やはりくどいものは苦手だったんです。しかし、ここ「蔵前家」さんに関しては最初からOKでして、鶏油の量を少なめにして頼んでいたんです。で、あるきっかけで出来た「ヌキヌキ」以後、もうこれが一番好きだと言い張る。
あたしもこちらへ伺いますってぇと、いただくのは麺固め、味付け抜き、油抜き、つまり「カタメヌキヌキ」しか食べなくなっちまった。ダシ好きのあたしのハートをど真ん中から打ち抜いた味であります。この麺とダシしか入っていない器ににんにく辛子とすりゴマをたっぷり入れましていただく。
中心部がちょいとレアな感じのチャーシューでもってくるんでいただきますってぇと、これがたまらない。チャーシューの塩っ気が丁度よくってこれぞ至極の味でありますな。変な雑味なんぞまったくなくって、まろやかでいて酷があるクリーミーなスープに小麦の味がしっかりとした極太麺が絡む。
で、黙々と食べておりますってぇと、大将がスープを一杯出したんです。見た瞬間これは今飲んでいるスープよりも濃いぞとわかった。聞きますってぇと、スープを作りこむ過程で出来る濃厚なやつだってぇことでして、ま、どういうことなのかは商売上のこともありますので伏せておきますが、これがたまらなく濃厚でありまして、当然のことながら雑味も嫌味もなく濃厚でいてまろやか。これを飲んじまいますってぇと、もう今までのはなんだったのかと。なんだか得をしたような、知らなくていい味を知っちまったというか、残念のような嬉しいような複雑な思いでありました。本日も味しくいただきましてご馳走様でした。
(行く度にあのスープがのみたい)