あたしんとこの菩提寺は歩いてほどないところにある天林寺でありまして、冬場はほぼ2週に一度、夏場は毎週墓掃除へと出向いております。親父が入っておりまして、あの人はきれい好きでしたから、花も枯らしちゃいけねぇしなと。しかし、冬の墓掃除は手が千切れるほどに冷たい。
掃除ったって水でもって洗い上げまして布巾できれいに拭き取るだけなんですが、それでも間を空けずに通いますればどの墓石と比べたってあたしんちの墓はきれいだなと自画自賛。最後に花と香花を替えましたら線香をあげる。女房がおもむろに渡してくれた線香に火をつけようとしますってぇとライターがない。
「あなた、タバコやめたんですものね」
「いけね、そうだったな。墓参用のライターを買っておかなくっちゃな」
「お線香を上げるためのライターですね」
「お、ZIPPOのブルドックでも買うか」
「あら、そんなにいいライターが必要なんですか?」
「親父もヘビースモーカーで晩年にタバコをやめたんだ」
「そうでしたね」
「で、おいらもやめたからさ、記念にいいライターがあってもいいだろ?」
「断煙記念にライターですか?」
「ああ、洒落がきついか」
「面白いわ」
本堂へと上がりまして、位牌堂へと向かいそこでやっと線香をあげまして親父にはいつも見守ってくれてありがとうと。断煙をしたことを心の中で報告を致しましたら位牌の向こうにいる親父がちょいと苦笑いをしたような。ダンディーな人でなかなか洒落っ気のあった親父であります。線香をつけるためだけのZIPPOをどう思ったでしょうかね。「面白いじゃねぇか」なんてぇ声が聞こえて来るようであります。
(墓を洗うと清清しい)